ここ一週間、スランプで日記とおさらばしていた。どうも、生来の能天気が増幅して、思考回路をめちゃめちゃにしていたようだ。要するに、問題意識もなく、のほほんと過ごしていたから、書くことも見当たらなかった。

しかるに、今日は嬉しいことがあったので、備忘録をしたためることにした。嬉しいここといっても、999のメーテルのような美しき乙女と出会ったわけではない。他人様からみれば、「なああんだ。つまらない」と言うことになるが、僕にとっては、それはそれは、やっと、求めていた物を手に入れたという喜びで一杯なのだ。もったいぶるのは止めよう。何のことは無い。ただ、チェアーを手に入れただけのこと。

小さいころ、あこがれていたものの一つが書斎に置かれる机と椅子だった。長さ2メートルはあるかと思われる木製の机、その机に向かって腰掛ける皮製の椅子。もち回転式、リクラインニング式だ。その椅子に葉巻を銜えて、のけぞっている偉そうな人の姿に、かっこよさを感じたものだ。「ははんーーー、あれが社長さんの姿か?」と、子供心に思った。

事務らしき仕事に携わるようになり、何時かは僕もあんな机と椅子に座ってみたいと思うようになった。苦節、うん十年。机だけは長さ2メートルはある中古品を手に入れていたが、椅子は両袖が無い普通の事務椅子に甘んじていた。まあ、超零細個人事業主たる僕には、それが一番相応しいのだろうが、飽くなき欲望は募るばかり。「ギッコ、ギッコ」と音がしていた椅子の背もたれが壊れた。これ幸いと、新たな椅子を物色していたところ、あったんだなーー。それが。プレシデント・チェアー。いやああーーでかい。昔、映画で見た、エマニエル夫人が座っていたような椅子のレザー張りみたいな物である。思わず、「苦しゅうない。もっと近こうに」と言いたい衝動に駆られる。

今、その椅子に座ってこの備忘録を書いている。ちょっくら疲れたら、深々と背もたれに身を任せ、両手は袖に投げかける。僕も貧乏性な男だ。頭の油で、背もたれのレザーが汚れはしまいかと、手でそっとふき取る。かたわらで僕の様子を見ていた山の神も呆れ顔。「椅子と私、どっが大事なのよ?」と言わんばかりだ。ナンセンスだ。比較にならない。とは言え、世の中には、ひたすら骨董品を集め、女房より大事にいそしんでいる人も多いと聞くから、始末に悪い。

僕はそこまでは行かないが、ただ、気に入った椅子が手に入ったという喜びはひとしおである。何となれば、椅子もある意味では僕の分身である。頭のひらめきも、この、すわり心地のよい椅子から生まれると言っても過言ではないだろう。倒せば水平近くまでいく。その椅子に寝転び、目を閉じると、不思議な感覚に襲われる。頭の中で、「はいアップ」とえば、少しずつ起き上がっていくように感じ、「はいダウン」といえば、少しずつ下がっていくような感覚にとらわれる。真にそう感じられるのだ。

僕は今、思っている。これは魔法の椅子に違いないと。僕の心がきっと通じているのだろう。大事にしなくちゃ。さっそくだ。名前をつけた、えーーーと僕が純ちゃんだから、椅子の名前は「純子ちゃん」にしよう。恐らく純子ちゃんは、僕が死ぬまでのパートナーになるだろう。このことは山の神には内緒である。さあ、僕には過ぎたこの椅子と共に新たな船出だ。

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